2016年2月19日金曜日

M銀行元審査役詐欺発覚から3年で逮捕 詐欺認定の難しさ

M銀行現職の行員が起こした詐欺事件

M銀行の審査役が起こした稀に見る巨額投資詐欺事件です。

M銀行の『元審査役』O容疑者(51歳)が本社応接室で顧客に嘘の投資話を持ち掛け1億1千5百万円を騙し取ったとして逮捕されました。『元本は銀行が100%保証し、月3%の利息』で『特別な顧客』だけに、という誘い文句でした。みずほ銀行の看板を最大限に利用した投資詐欺で、被害額の総額は数十億円になると言われています。

この事件の発生自体は3年前なんですよねなんでまた今頃やっと逮捕なんでしょうか?

詐欺罪は認定が難しい

詐欺罪が成立するには、4つの条件があります。

①犯人が騙すつもりで騙し
②被害者が錯誤したことで
③被害者が財産を処分し
④その処分した財産を犯人又は第三者に交付した

上記の因果関係が一連してないとダメなんですって。特に①犯人が騙すつもりで騙すっていうのが犯人の主観による所なので立証が難しい。

試しに①を少し変えてみると、どうでしょう。

①騙すつもりはなかったけど
②被害者が勘違いしたことで
③被害者が財産を処分し
④その処分した財産を犯人又は第三者に交付した

こうなると『預かったお金を返せない』だけですので犯罪になりません。犯人はあくまで『騙すつもりはなかった』と言い張ることで刑事罰を逃れようとします。

『騙すつもり』という点について決定的な証拠が無ければダメなんです。今回のケースでは犯人が『本物のみずほ銀行の調査役』という身分があったため、『騙すつもりはなかった』言い訳が豊富にあったのでしょう。

検察側は慎重を期したのかもしれません。『そんな美味い話があるわけ無い』というのは、あくまで状況証拠という分類なんでしょう。


投資詐欺の典型『元本保証の高利回り』


『元本は銀行が100%保証し月3%の利回り』とは、1億の元手がノーリスクで1年後に1億3千6百万円になることを意味します。

これを信じさせるために犯人が仕掛けた罠が『特別な顧客』と『M銀行の看板』でした。

美味い話には気を付けましょう。

一部にはお医者さんやスポーツ選手などの世間知らずが引っかかったなどと揶揄する声が(恐らくやっかみもあり)上がっています。


人は信じたいことを信じる生き物です


始めはおかしいとは思っても『働かずに大金を手にする』そのお金で実現する生活レベルの向上、将来への不安の解消がもたらす幸福感を目の前にすると、それを信じたくなるのが人情です。

今まで自分が知らなかっただけで、そういうことがあってもおかしくは無い。

なんて思いたくなるんです。

もう一つはM銀行本社の応接室という舞台や『特別な顧客』という言葉です。

例えば、私にそんなことを言っても効果はありません。怪しさが増すだけです。しかし普段から『特別扱い』されている人達で有れば、信憑性を増す言葉なのかもしれません。

被害者達にとっては聞き慣れた言葉なんでしょうね。


被害者達は以前にも美味しい話で儲けたことがある?

もう一つの見方があります。被害者達は『以前にも似たような美味しい話があって、その時は美味しい思いをした』経験があるのかもしれない、という見方です。

元本が保証され、高利回りの利益が約束される取引は存在します。あえて書きませんが投資とは言えない違法なものです。

おそらく当局は『被害者』に対する捜査も並行して行っている可能性もあります。この投資詐欺の被害者は数十人、被害総額は何十億円とも言われていますが、立件されたのは刑事告訴した男性医師(45歳)の1億1千5百万円だけです。


O容疑者と共犯二名の違い

O容疑者は詐欺を認めましたが共犯二人は未だ否認しています。

被害者から騙し取った金は他の被害者への穴埋めや遊興費に使ったことになっていますが、詐欺の大胆かつ巧妙な手口に比較して取って付けたような印象を受けます。

O容疑者は服役後の絵を既に描いているが、共犯の二人は描けていない。

詐欺の手口だけでなく、その使い途にこそ深い闇があるように思います。

それを知っているのはO容疑者であり、共犯の二人は知らない。やはりキーマンはO容疑者でしょうね。

2016年2月12日金曜日

M銀行元行員横領事件から考える 繰り返される理由と不正防止の観点

全ての銀行関係者に考えてほしいこと

始めに断っておきます、私はM銀行の関係者ではなく、家族にも関係者はいません。また、たまたまですがM銀行に預金は無く、融資も受けていません。投資もしてませんよ。

このブログは、M銀行の関係者(もしかしたら経営者も)に読んで貰いたい、と思って書いたものです。しかし、Googleで検索しても私の記事は他のニュースサイト、まとめサイトに阻まれ、なかなか読んでは貰えそうにありません。

前回はM銀行の企業としての側面に対し少し批判的な内容でした。『じゃあどうすればいいのサ?』という問いにある程度答える記事を書いておこうと思います。

銀行の3大機能と商品

銀行の3大機能は、『金融仲介』『信用創造』『決済機能』の3つの機能によって成り立っていると言われます。詳細は避けますが、これらの機能の根幹にあるのは銀行への信用です。

マクドナルドの商品がハンバーガーであるように、銀行の商品は無形の信用です。
《モルガン•スタンレー 、ローレンス•マッキントン》 
『銀行の経営は信用があって成り立つか、融資する価値がないと判断されて成り立たなくなるかのどちらかだ』

横領が信用に与えるダメージ(決済機能における信用の軽視)

では、行員の横領が銀行の信用に与えるダメージはどの程度かというと、大したことはないというのが大方の見方です。

逮捕の報道の直後に確かに株価は下がりましたが、たまたま売り時をうかがっていた投資家が売るキッカケになった、程度のものでしょう。

『何千万も騙し取られるまで気付かないような金持ちの話だ、呑気なもんだ、俺には関係ない』って訳です。

これが『信用創造』機能への信用不安なら様相は全く異なってきます。預金者が一斉に預金を取り戻そうと窓口に殺到し、銀行は破綻します。


決済機能への取組(照合への偏り)

だからといって、銀行の決済機能への取組がずさんだと言いたいのではありません。

昔聞いた話ですので情報が古いかもしれません。3時に銀行窓口を閉めた後、残高を合わせるのですが、一円でも合わなければ帰ることは出来ない。

支店内の全員の机の中はおろか、ゴミ箱まで探して原因を追及するらしいです。

照合するということにおいて、銀行の右に出るものはないでしょう。近年はITの導入によって照合業務のかなりの部分が機械が行うようになっていると思います。一方で人間によるチェックについては照合中心から脱却できていないのではないか?というのが私の考えです。

再び、『銀行員にならなければ犯罪者にはならなかったかもしれない』

挑発的な内容ですが、怒らずに読んで下さい。

銀行員の横領という決済機能への信用というダメージについては、銀行も社会も深刻視しません(マクドナルドとエライ違いです)。また、銀行の決済機能のチェックは未だに照合に偏っているため、照合で発見されない手口(内部の者による偽造)には弱い。

今後も、善良な銀行員から一定数の犯罪者が出続けるのでしょう。


不正防止の観点からのチェックを


こういった犯罪の場合、その時は気付かなかったが『今にして思えば不自然だった』というような出来事(兆候)があるものです。

そういった生きた経験を、個人のものだけにするのではなく、組織で共有し、可能なものはルーティンのチェックの中に織り込んで行く。

照合についてはそろそろ機械に任せ、人によるチェックは仲間を犯罪者にしないための不正防止の観点からのチェックにシフトすべきではないでしょうか?


2016年2月6日土曜日

M銀行元行員の犯罪 46歳の元課長代理 不正のトライアングルと銀行の罪

銀行員と犯罪

M銀行の元銀行員が横領で逮捕されました。46歳の課長代理の男性です、私とそう歳はかわりません。それで少し検索してみると、M銀行は去年の11月、4月にも横領で逮捕者が出ています。どちらも50代の男性課長です。

加えて前代未聞といえる現職の審査役による巨額投資詐欺事件も発生しました。

銀行員といえば、あまりこういう言い方好きじゃないですが、サラリーマンの中では上の部類に入る人達です。別の言い方をすれば社会的な信用が高い。例えば、独身女性の読者の方が彼氏を親に紹介するときに、比較的両親のウケがいい部類の人たちです。

しかしその銀行から約一年の間に少なくとも3人の犯罪者が出た、という事実をどう見ますか?

当然、銀行が犯罪者ないし犯罪者の要素を持った人を雇用しているのではありません。


彼らは銀行員となってから犯罪者となった

「何を当たり前のことをエラそうに」と思われるかもしれませんが、重要なポイントです。このような言い方もできます。

彼らは銀行員にならなければ、犯罪者にならなかったかもしれない。

最後が「かもしれない」で終わっているのは始めに「銀行員にならなければ」という「if」があるからです。彼らが銀行員でなかった場合にどうなったかまで、私にはわかりません。

銀行員、それもみずほ銀行のようなメガバンクに入行するには真面目に勉強をして、東大とまではいかなくても誰もが知っているような名のある大学に入り、要領よく単位を取り、就職活動もしっかりやったのです。

彼らが銀行員になるまでの人生において『盗む』『騙す』という行為からは実に遠いところにいたはずです。



不正のトライアングル(動機、環境、正当化)

不正のトライアングルという言葉があります。企業の従業員や経営者が横領や不正会計、粉飾決算をする、ある一線を越える時の要素です。

不正のトライアングルはインディアナ大学出身の犯罪学者ドナルド•クレイシィ(1919〜1987)の研究による、1973年に出版された「横領の社会心理に関する研究」の中で提起された理論が発展したものです。

現在は、企業が従業員•経営者による横領、不正会計、粉飾決算などを未然に防止する仕組み(内部統制)を構築する時に利用される考え方です。


横領の動機

彼らが、横領という犯罪に手を染めた『動機』として、ギャンブル(借金)や高級クラブ(女)が本人の証言として報じられています。銀行員は特にギャンブルや女に溺れやすいのでしょうか?ギャンブルや女というのは、銀行員に限らず『男性』に特有の動機であると思います。


横領可能な環境

彼らに共通するのが、『管理職である』である点です。報道では、その立場を利用したような書かれ方をしています。

手口の詳細は分かりませんが、管理職というだけで簡単に預金を引き出せるわけではありません。必ず何人かのチェックの上で行われますし、内部監査も定期的におこなわれているはずです。

むしろ、M銀行の現在の不正防止措置では有効性に欠けるのかもしれません。(かもしれません、というより『そうに違いない』と書きたい位、短期間に不正が頻発し過ぎです)

犯罪者を擁護する意図はありませんが、この点において銀行側の責任は大きいと私は考えます。

『性善説』『性悪説』という言葉があり、しばしば『性善説』はそんな悪い人間はウチの会社にはいないよ、というような耳障りの良い、人道家的な立場からの意見として語られることがあります。しかし「できればカネにならない不正防止などということに時間と労力を使いたくない」という企業側の本音の隠れ蓑として語られていることが多いです。

本当に従業員や顧客のことを思うならば、


  • 大きな企業ほど従業員の『動機』にまで目配りできないこと
  • 人間は元来弱く誰しも不正を働く可能性があること


上記を踏まえて『不正をやろうと思っても極めて困難な仕組み』を(ある程度、コストがかかっても)設定するのが、真に人道的な立場であろうというのが私の考えです。

元来は善良な自分達の仲間を犯罪者にしない為のコストでもあるのです。



横領することの正当化

横領は言うまでもなく、悪いことです。彼らの中でそれを正当化する理由があったということです。例えば、こんなことになったのは銀行(顧客)のせいだ、自分は悪くないorやむをえない。というような身勝手ですが、彼らの背中を押す『事情』です。

彼らの年齢とポストを見ると、銀行への復讐もあったのでは、と思われます。もちろん復讐だとすればお門違いですが、たとえ銀行内で出世出来なかったとしても、最後まで自分の仕事に誇りを持ってもらいたかったと思います。

そして、そのような前向きな風土を形勢するのは経営者の責務であると思います。

2016年2月4日木曜日

建築会社のデータ改ざんの手口と動機から見えるマンション購入のリスクとチャンス 

データ改ざんの手口と動機から考えるこれからのマンション市場


ここ数日はゼネコンA社の施工データ改ざんの話題で持ちきりですね。今回は、ゼネコンの施工担当者が行った改ざんの手口とその動機、これからのマンション市場について書きます。

  • なぜこんな事になったのか?
  • 消費者はこれからどうすれば良いのか?

現行の工事監理の限界=工事施工者の悪意を想定していない


マンションの建築工事では設計指図書の通りに工事が行われているか、第三者的な立場から工事監理者という立場の一級建築士がチェックする体制になっています。

杭工事ではまず初めに試験杭を打ちます。工事監理者はその現場に立ち会って設計図書通りに施工されているか、下記に挙げるような重要な部分をチェックするんです。

  • 材料
  • 施工管理状況
  • 地質
  • 支持地盤
しかし、工事監理者はずっと現場に張り付いて監視してる訳ではありません。

施工業者が試験杭の施工と同じように誠実に施工することを前提としているんですね。

つまり、工事監理者のチェックは施工者に悪意があることを前提としたチェックになっていないんです。


改ざんの手口は極めて単純


ゼネコンA社の社長が現場担当者による改ざんを認めたのは凄く早かったと思いませんでしたか?

マンションの傾きが大々的に報道されて、マンション販売会社の社長が住民に謝罪した、その日に、もう現場担当者によるデータの偽装を認めたんです。

つまり…


  • 資料に隠ぺい工作が無く、見ればすぐわかる
  • 疑いようがない


こんな状態だったということです。

報道では当初『データを改ざんした』と出てましたので私は電子データとばかり思ってました。

電子データでコピーされたら、なかなか分からないだろうな…

と、思ってましたけど、その後のゼネコンA社の社長の説明では『記録紙が濡れた』というコメントが出て来ました。

え?記録紙?

ということは、電子データではなく、紙のコピーということです。

すぐわかったということは他の杭のデータを印字した記録紙をコピーして、ほとんどそのまま綴じ込んでいた可能性が高いですね。

いずれにせよ、問題があるかもしれないという目で専門家が見れば明らかにコピーだとわかったような手口ということです。


担当者が施工データを改ざんした動機


施工データを偽装したところで、担当者に金銭的な見返りはありません。

報道でも言われていますが、工期を守らなければならないというプレッシャーだと私も思います。

このマンションが販売を開始したのは2006年でした。下のグラフにもありますが、首都圏のマンション販売戸数が特に多かった時期の最後の方の時期です。

ちなみに2008年にガクッと落ちてるのは、リーマンショックによるものです。

国土交通省 住宅経済関連データより
マンション新規販売戸数の推移

この時期は、デベロッパーからの工期への圧力が高かったと言われてますね。このグラフを見ると、2006年以前もかなりのプレッシャーがあったのではないかと思います。

今後は、工期を守るということが、施工不良の動機になり得るという前提を置かない訳にはいかなくなるでしょう。

今後のマンション市場は冷え込むが、購入希望者にとっては好機でもある


当然、今回のこの事件を見て『やっぱりマンションを買うのは恐いな』と思った人が多いと思います。

聞いた訳ではないですけど、契約件数はガクッと落ちたでしょうね。

ということは…ヤラシイ話ですけど

新築マンションの値引き交渉を有利に運ぶチャンスとも言えます

多くの人が様子見に入るので『買い手市場』になるんです。良い物件を安く手に入れるチャンスです。

同時に

  • 既にマンション建築ペースは落ち着いている
  • 施工者、監理者、マンションデベともに過敏な程に注意している


新築マンションについては、むしろ最も施工不良のリスクが低いタイミングだと言えます。

その逆に、供給のピーク時に建設された中古マンションについては、施工不良のリスクについても慎重に考えた方が良いかもしれません。


今後のマンション購入検討者に迫られる選択


マンション販売会社にとっては、まさに今、販売中のマンションが売れないということは次のマンションを建設する為のキャッシュの流れがストップすることです。

やらしい話ですが、間違いなく購入検討者にとってのプラス面です。

むろんリスクもありますが、今回の事件は今まで密かに潜在していたリスクが見えただけという考え方もできます。

一方で、たとえ僅かでも施工不良の可能性があるなら購入すべきではないという考え方もあるでしょう。工期のプレッシャーは健全な経済活動で通常発生するものです。これが施工不良の動機になり得るというリスクは、事件そのものが風化しても残り続けるでしょう。


  • リスクを許容するならば好機
  • リスクを許容しないならば、あくまでマンションの購入はやめるべき


購入検討者はこの決断を迫られる場面になりそうです。