2016年8月21日日曜日

消費税増税の延期を8割のエコノミストが予想ってことは延期は無いと思ったけど延期されましたね

消費税増税は2年半延期


消費税増税の延期説が大声で囁かれていますね。どうも、エコノミストが飯を食うために言ってるようにしか思えません。

彼らはとりあえず何か言ってないと存在価値が無いと思ってるかのようです。また、今まで延期は無いと言ってたエコノミスト20人のうち9人が最近になって見方を変更したらしいです。

間違ってたと思ったらすぐに変えるのは良い事ですけど、そんなにコロコロ変えて良いものでしょうか?

何だか軽いですよね…

彼らも実は分かっているんですよ、延期したところで将来の負担が先送りされるだけです。その証拠に延期自体に対する支持は延期予想よりも低くて19人中10人が延期すべきでないと言ってます。

つまり、ホントは延期するべきじゃないんだけど安倍首相は延期しちゃうんだろうなぁ、と予想しているという事です。

景気条項は撤廃されている


そもそも、消費税の10%への増税は既に法律で決まった事です。しかも、景気の動向によっては延期するという『景気条項』は去年の4月に撤廃されました。

つまり『景気がどうなろうと上げるよ』という意思決定を既にやってしまった訳です。

あるエコノミストは追加緩和による刺激効果は見込みにくいし、為替政策、円安による景気刺激策はとりようもない。とすると、財政政策による景気対策しか残ってないんだからこのタイミングでの消費税率引き上げはナイなんて言ってますね。

しかし、そういう話は景気条項を撤廃する時に言っておかなきゃと、私なんかは思うわけです。言ってたのかもしれませんが。

延期すると再増税が困難になり財政再建が遅れる


延期するべきじゃないという根拠は、延期した分だけ財政再建が遅れて将来にツケを回す事になるからです。

消費税増税分の使い途は2012年の3党合意で社会保障に充てられる予定でしたので、これが延期されると社会保障の赤字が拡大します。

まあ変な投資をしなければもう少し残ってたかもしれませんが。社会保障関係費は一般予算の中でも最大の規模なんです。

この赤字分については当面は国債で賄われます。マイナス金利で国債を買う人が多いですから当面は大丈夫なんですけど、国債は借金なんですよね。当たり前のことですが。

借金はいつか返さないといけません。そしてその財源は?結局は増税しか無いという事です。国が借金を踏み倒す訳には行きません。

つまり、今の増税の延期説は…

負担を将来へ先送りしますという事と同義なんです。

将来に責任を取らないのは私人です


エコノミストの8割は、とりあえず今の景気に対してどうこう言ってる人と、とりあえず何か言っておかなきゃという人で構成されているんだと思いますよ。

特に、3月の政府月例報告の景気の下方修正を見てから見解を変えた人は、将来に対して責任を感じていない人です。

学者だったら良いんでしょうが、公人である政治家なら、そう簡単に延期などとは言えません。

安倍首相は3月28日の参院予算委員会で、来年4月予定の消費税率10%への引き上げを延期する方針を首相が固めたとする報道に対して『リーマン・ショック、大震災級の出来事が起こらない限り、予定通り消費税を引き上げていく考えだ』と否定していましたね。

この時点では、安倍首相は公人であったという事です。

新しい判断による延期


しかし、2016年6月1日に安倍首相は新しい判断で消費増税の2年半の延期を表明しましたね。

つまりは、そういうことなのでしょう…

2016年7月23日土曜日

O学校法人の裏金5億の本当の罪と大阪府の補助金20%減額

O学校法人の裏金事件


O中学高等学校が少なくとも10年間、保護者から模試代や教材代として集めたお金を不正にプールし、学習塾への接待(ゴルフ、飲食等)の他、誰に贈られたのかわからないブランド品(100万円のバッグや10万円のスカーフ等)に使われたそうです。裏金は5億円を超え、裏金口座から前校長を含む幹部職員の口座に1,700万円が振り込まれた形跡もあるとのことです。

O高校は高校野球の名門校であると同時に大学進学校としても力を入れていますね。東大や京大といった超一流大学の合格者も多数出しているようです。

私の知人に卒業生が居て、彼から聞いた話ですが、スポーツ組と勉強組は元からクラスが別れていて、彼は勉強組だったらしいです。勉強組は毎日小テストがあって、模試も良く受けさせられたと言ってました。

  • スポーツ組が広告宣伝部
  • 勉強組が営業部

という仕組みで学校の知名度を上げ、生徒を集めるビジネスモデルです。批判するつもりはありませんよ。そういうものだと思います。

裏金の手口を確認しておきたいと思います


まず予備校の模試を学校で行います。模試の問題は大手予備校のもので、その採点と偏差値算出などは大手予備校が行なうので大阪桐蔭は場所の提供ということですね。
模試の申込みは学校でまとめて受け付けて保護者から一人幾らでお金を集めます。そして予備校には一括して代金を支払う。


集めたお金>予備校に払うお金


この差額を『儲け』又は『利益』として帳簿に計上せずに隠し口座に貯めていったわけです。

もし利益として帳簿に計上していたら何の問題も無かった


ニュース番組では、この儲け自体が悪いことのように報じられていましたが、そうじゃありません。儲けを『記帳せず隠していた』ことと『不適切な使途』や『私的な流用』があったことが悪いことなんです。模試を学校で行うことに付加価値があるからです。

どんな付加価値かちょっと書き出してみます。


①保護者に対する付加価値

  • 通学定期で行けるいつもの学校で行われる
  • 模試の結果を同時に学校も入手し、進路指導をして貰える

②予備校に対する付加価値

  • 会場を学校でやって貰える
  • 申込み事務を一つにまとめて貰える
  • 安定して多数の生徒の模試を申込んで貰える

つまり、保護者に対しては通常の模試の料金にその付加価値をオンした料金を請求しても良いですし、予備校に対しては通常よりも料金を割引きして貰うのが常識でしょうね。

問題があるとすれば、保護者に対してその付加価値をオンしていることを説明してないことです。

説明せずにオンしている金額が常識的な感覚とかけ離れて高い場合は問題となるでしょう。


裏金の使い途『接待』と『私的流用』


じゃあ記帳しておけばよかったのにと思われるかもしれません。記帳すると学習塾の塾長との接待ゴルフに使ったり、自分のお金が足りない時にちょっと借りたりできないからです。

本当の犯罪は補助金の過大請求です。

学校法人は営利を目的としない公益法人です。

建前としては、創立者が私財を投じて国の次代を担う人材を教育する目的で設立されるものですので『補助金』が出ているんです。

今年は大阪府から6億6千万円出る予定だったんですね。でもそうやって儲けてるんだったら、そんなに補助金は要らなかっただろうということになる。

今まで税金から払われていたお金=補助金は間接的に学習塾や前学長や幹部のポケットマネーに流れていたようなものです。

大阪府は補助金を20%減額すると言ってますが個人的には生ぬるいんじゃないかなと思います。

母体となる大学の理事長は『改善策を検討し、学園を挙げて信頼回復に努めたい』と語っています。

その大学も…補助金目当てに組織ぐるみで付属高校の生徒を利用し、やらせ入試をやってたんです。


平成21年に補助金を得るために入学者数を調節するため、付属高校の成績上位の生徒に謝礼を支払って大学を受験させ、入学を辞退させる不正を働き、関係者が処分されています。


私が『生ぬるい』と言う理由は分かって頂けると思います。

生徒には罪は無く、一番の被害者です。学校にはしっかりして貰いたいものです。

2016年5月18日水曜日

粉飾決算の本質とは?繰り返される大企業の粉飾事件、その本当の理由

大企業の粉飾決算の本質を斬る


どうも千日です。

T社の不適切決算について、5月29日に社長が謝罪会見を開き、2014年度決算について異例の2度の株主総会を開くことを明らかにしました。

第三者委員会による不適切会計の調査結果は7月中旬に出るので、6月25日に予定している定時総会では決算の発表が出来ない。定時総会では任期到来した役員の再任をはかる目的です。
そして2度目の臨時総会で第三者委員会の調査結果の報告と合わせて決算報告をするとのことです。

粉飾決算が無くならない理由として、①経営者のモラルが低い、②監査法人の怠慢だ、はたまた③制度に問題があるなど色んな人が色んなことを言ってます。

私の考えは少し違います

①経営者のモラル


粉飾決算は会社法、金融商品取引法違反です。罰則がありますし過去の事件では経営陣が逮捕されてます。

世間を欺き、実態よりも会社の価値を大きく見せて利益を掠め取る犯罪ですから、そんな経営者のモラルに問題があるという見方です。

一理ありますね
しかし、このモラルは直接には顔も知らない投資家や株式市場の安定に対してのモラルなんですよ。

例えば、自分の会社の存続や従業員やその家族の生活と天秤にかけて投資家や株式市場の安定を重視する。そんなモラルの持ち主でなければダメということになります。

そんな人いるんでしょうか?

②監査法人の怠慢


不正や粉飾事件では監査法人の監査が十分に機能してなかったという話が出ますね。『監査法人は何をやってた?』千日もつい昨日記事にしました。

現に結果として不正や粉飾があった訳ですから監査法人が怠慢だとか無能だとか言うのは簡単です。

過去のケースでは監査法人も金融庁から業務改善命令を受けてます。早い話が役所から『マジメにやれよ』と怒られたということです。

どうやら最近は役所から指導された主に文書作成を中心とした内部手続業務に追われるようになり、『クライアントと向き合う時間がなくなった』などといった理由で監査に対するモチベーションが低下しているそうです。

むしろ彼ら、マジメ過ぎるんじゃないでしょうか?

役所の指導する文書作成を中心とした内部手続業務を頑張れば、東芝の不適切会計を未然に防げたとは到底思えません。


③監査制度の問題


そこで出てくるのが、『監査対象クライアントから報酬を受けて監査するという制度自体に問題がある』という見方です。

T社は新日本有限責任監査法人にとって6番目に監査報酬の多いクライアントだそうです。監査報酬はなんと11億円というらしいから驚きですね!

そりゃ大得意先でしょう天下のT社です。ケンカは出来ないですね。

しかし、ケンカ出来ないのは東芝も同じです。監査法人が監査報告書で『適正意見』を出さない場合の損失は遥かにクライアントの方が痛手なんですから。

『不適正意見』とは会社の決算が適正ではないという監査報告書です。通常これを目にすることはありません。なぜならこうなることが分かったら、会社が監査法人を変えるからです。

市場は特に理由がハッキリしない監査法人の交代については『決算書に絵空事を書いているヤバイ状態?』と敏感に反応します。

天下の⚪︎⚪︎と言われる大企業であるほど、簡単には監査法人の変更は出来ないものなのです。

そろそろ結論です

皆が価値を無視して数字を見ている


当たり前ですが、企業の価値は貨幣単位の数字で表現されるんです。本当に大事なのは価値なんですけど、それは目に見えないので数字を見ます。

創業者はゼロから1を創り出す稀有な人物です。価値を『観ている』からそれが出来る。
今や大企業に創業者はいません。大抵のトップは創業者のカバン持ちの、そのまたカバン持ちです。『数字を上げる』=実績という世界で特に優秀な人達なんです。

このような人達の数字に対する執着はしばしば実態としての価値よりも優先されるんです(数字が良ければ良い、価値が無くても数字を上げるノウハウ)。

それは投資家も同じ、我々も同じです

粉飾決算の本質はそのような我々のクセにあるんです。


これにそのエッセンスを込めたつもりです。実態として価値がマイナスだと分かっていながら数字にこだわるこのような人は社長でなくても我々の周りにいますよね。

そんな常識の中で鎌倉投信の新井和宏氏の投資に対するスタンスは良い意味で常識外れです。

監査法人もまた同じ


監査法人は価値通りの決算発表(ディスクロージャー)を指導する立場です。自ら価値を創造する才覚は無くても、そういう見方が出来なければなりません。


もしも分かっていながら先送りしたということであれば、怠慢というよりも職業倫理上の問題であると思います。別の見方をすると気後れしてるようにも見えます。

日本の公認会計士の歴史は浅いですが、やはり今のトップは黎明期に今の大企業の成長を後押ししてきた創始者達のカバン持ちなんです。

監査の価値よりも監査報酬という数字を優先したんじゃないでしょうか。

最後は阿佐田哲也氏の名言で締めたいと思います。ここまで読んだ方にはただの麻雀のコツではありませんよね。

麻雀を点棒のやりとりだとしか思えない人は永遠に弱者である。麻雀は運のやりとりなのだ。点棒の流通は誰にも見える。が、運の流通は見えにくい。だから多くの人が無視する。

最後まで読んで頂きありがとうございます。

2016年5月13日金曜日

工事進行基準の利益の先取りと問題の先送り 監査法人はその時何を?

T社の不正を見抜けなかった監査法人

工事進行基準はリアルタイムに企業の活動の成果を決算に反映できるけど、恣意性が入りやすいので粉飾決算のリスクが高い。
例えば、見積総原価を低く見積もったら簡単に利益を先取りすることが出来る。

『会社は利益が多い方がいいから、ほっといたら皆やるでしょ。そんな会計基準はダメだな』と思いますよね。

しかし大企業は監査法人が決算を監査するという建前があります。

監査法人というのは、会計の専門家=公認会計士が作る会社です。
企業が粉飾決算をしないように、大企業の決算書(有価証券報告書といいます)を公表前に監査して監査報告書という『お墨付』を付けるんです。

例えば前の記事の例で行くと、会社が『ホントは完成まで80億くらいかかる工事なんだけど50億で出来るようにしておこう』と考えて決算書を作ったとします。

監査法人がちゃんと機能してたら、公認会計士がチェックして『ちょい待ち、そんな安くで出来ないでしょ』と突っ込んで、適正な決算を指導するんです。

だから東芝のケースでは担当した新日本有限責任監査法人の監査がちゃんと機能して無かったんじゃないか?とも言われてますね。

会社と監査法人の間でどんなやり取りがされてたんでしょうか?

考えてみました。

昨日のブログの数値例を前提にします。


  • 売上100億の工事
  • ホントの見積総原価は80億だけどワザと50億で出来ることにする
  • 今年は20億の工事原価が発生した


期末決算監査にて


経理部長『やあセンセ今年もよろしくお願いします。今年も業績はだいたい予算通りいってて順調ですワ』

担当会計士『どーもどーもソラ何より。ところで、例の原子力のインフラ工事、震災から原子力は風当たり強いでっしゃろ?』

経理部長『そうですなぁ…確かに遅れてるみたいです。工事積算部からは何も言って来ませんから見積総原価はそのままです。そういう内部統制ですからね』

担当会計士『一応担当者から話を聴いておいた方がいいですね。ちょっとセッティングして貰えますか』

経理部長『わかりました、ワタシも確認しておきたいですし』

工事担当者へのヒアリング

担当会計士『例の工事の進捗、どうでっしゃろ?見積総原価が50億で20億の原価が発生してるから40%くらい進んでる感じ?』

工事担当者『40%??何の冗談でっか?全然ですワ、やっと基礎工事にかかった所ですからええトコ10%位です』

担当会計士『そらエライこっちゃ。決算資料では100億の請負で見積総原価は50億となってるけど…』

工事担当者『今回の見積総原価はだいぶコストを絞ってますからね、今営業で請負金の増額交渉してます』

経理部長『増額交渉もするやろけど、結局原価はナンボになるんや?内部統制で見積総原価が変わる場合はすぐ経理に変更予算を出すことになってるやろ』

工事担当者『分かってますよ!私は何度も提出してます。工事の再開がいつか、追加工事を受注できるか、色んな不確定要因があるんで、部長が決裁しないんです。ウチの部長に言って下さいヨ』

担当会計士『マアマア、ともあれコレはもうちょっと社内で揉んでもらわんとあきません』

経理部長『わかりました』

監査法人の事務所で上司(業務執行社員)との会話


担当会計士『…とこんな感じだったんですけど、あれから修正予算が出て来ることも無く、今に至ってます』

業務執行社員『キミなぁ、ツメが甘いんちゃうか?監査報告書は明日やで今更どうすんねや』

担当会計士『スンマセン…』

業務執行社員『経理部長はどう言うてるんや?』

担当会計士『会社の内部統制では工事積算部から修正予算の提出がないと決算数値に出来ないと言ってます。だいたい、あんな大規模工事の原価が幾らやなんてワカリマセンと…私もわかりませんし』

業務執行社員『しかし、今の売上と利益は明らかに多過ぎるんやろ?適正とはいえへんやろ』

担当会計士『ホナ監査報告書、不適正で出しまひょか?』

業務執行社員『オマエはアホか?天下のT社やぞ、そんなこと出来るわけないやろ。今回はしゃあない


担当会計士『わかりました』


その頃の工事積算部での会話


工事担当者『部長、修正予算です。やっぱり大赤字ですワ、そもそも元の予算も原価絞り過ぎなんですよ』

工事部長『オマエはアホか?ウチは天下のT社やぞ、この工事で赤字なんぞ出す訳にいかんのや。どうにかせえ、やり直せ


そして『ふりだしに戻る』です。


まとめ


工事進行基準で見積総原価を小さく見積もることで、利益を先取りできますが、少なくとも完成する時までには本当の原価が発生します。

後になって全体の確定利益が分かって、利益を先取りしてたことが明るみになります。別の隠蔽工作をしないとバレます。

しかし、それまでの間は色んな不確定要因があるんで、上手く説明すればシロともクロとも言えないグレーな感じになるんですね。

つまり、問題を先送りし、利益の先取りを許した監査法人の監査は有効に機能していなかった。

監査を担当した新日本有限責任監査法人の責任も問われることになるでしょう。

2016年5月10日火曜日

工事進行基準不正会計と第三者委員会の調査ポイント

工事進行基準の不正リスクを解説します


何日か前からですがT社の不適切会計が大きな波紋を呼んでいます。巨額粉飾事件に発展するのでは?と言われてますね。

T社は証券取引等監視委員会に届いた内部通報で不適切会計が発覚し、2011年度から2013年度の利益の減額修正は500億円強だと発表した。加えて第三者委員会による調査を行う。その範囲は

①工事進行基準に係る会計処理
②映像事業における経費処理
③半導体事業における在庫評価
④パソコン事業における部品取引

など主力事業の大半が対象になっており、意図的な会計操作や経営陣の関与があった場合は大事件となる恐れがある。

記事を見ても『不適切会計』でやれ『第三者委員会』だの、『工事進行基準』だので結局何がどうなのか要領を得ない感じですね。

今日はこの『不適切会計』と『工事進行基準』という二つのキーワードの解説と、『第三者委員会』が調査しているポイントについて解説します。

不適切会計と粉飾決算の違い


別の表現を取ると『粉飾決算』です。実態よりも儲かってるかのような決算発表をして投資家を欺く行為です。

あえて粉飾決算と報じないで不適切会計と報じる理由は、ワザとなのか、ワザとじゃないのか明らかになってないからでしょう。

そこは第三者委員会の調査で明らかになるということです

では工事進行基準とは?

工事進行基準が不適切だったと報じてますね。工事進行基準って何でしょうか?
請負工事の収益を計上する会計基準の一つです。


工事進行基準は粉飾決算のリスクが比較的高いんです


請負工事の収益の計上基準には二つあります

  1. 工事完成基準:完成引渡し時に収益を認識する
  2. 工事進行基準:工事の進捗度に応じた収益を認識する

1の工事完成基準はシンプルです

工事が完成して引渡したタイミングで収益を計上するやり方です。

100万円の工事を80万円の工事原価で完成させる場合で考えてみます。
工事中は一部前金を貰ったり、工事のために外注業者にお金を払ったりしますが、工事が完成して初めて100万円の売上と80万円の原価を計上するんです。利益は20万円ですね。

どれだけ工事が進んでても完成しないと売上になりません。確実ですけど大規模な工事で2年3年かかるような場合は会社の活動の成果が決算にリアルタイムに反映されないという弱点があります。

2の工事進行基準はリアルタイムに成果を認識します

工事の進行度合いを費用の発生額で見積もって収益を計上するやり方です。

例えば100億円の工事を80億円の工事原価で完成させる場合で考えてみます。

一年目にその工事に20億円の費用がかかったとします。トータルの原価(見積総原価)が80億円ですから25%進んだと考えます。

工事が途中でも、100億円の25%の25億円の売上と20億円の原価を計上するんです。利益は5億円ですね。

この方法ならリアルタイムに会社の活動の成果を決算に反映できます。多くの大企業はこの基準で工事収益を計上して決算発表してるんです。


工事進行基準のリスク=見積総原価はあくまで『見積り』なので恣意性が介入する


さっきの例の工事の請負額100億円については相手(施主)との契約があれば、まあまあ確実です。

しかし…

見積総原価の80億円はどうか?これは企業が自分で見積るんですよね。極端な話、いくらにしても良いんです。

さっきの例で粉飾をしてみましょうか。
ホントは80億円かかるんだけど、50億で出来ることにしちゃいます。

20億の費用がかかったら、50億のうち20億ですから40%進んだことになります。

そうすると100億円の40%の40億の売上と20億の原価を計上できます。利益は20億ですね(さっきは25億の売上で5億の利益でした)。

もちろん50億では完成させられないので翌年完成の時には60億の売上に60億の原価で利益はゼロです。

見積総原価を弄ると利益を先取り出来るのが工事進行基準


T社が500億円の利益の下方修正をした背景は、このような利益の先取りがあったということを意味しているんです。

仕組みは小学校の算数レベルの話ですが、ややこしいのはその背景です。

数年に渡る大規模工事の総原価の見積りについて

  • ワザと低めに見積もったのか
  • ワザとじゃないけど結果的に足が出てしまったか

これを判断するのは、かなりややこしいでしょうね。ワザとかワザとじゃないかで罪が全然違ってきますから。

こういう背景があっての弁護士や公認会計士の第三者委員会の調査ということなんです。

2016年5月1日日曜日

O社の株主総会 勝った2世社長に忍び寄る米ファンドの影と同族会社の今後

O社の親子喧嘩は下馬評を覆して娘(現社長)が勝ちました。


経営方針を巡り創立者と現社長が対立していたO社の株主総会が本日開催され、現社長の議案が61%の賛成多数で採決されました。総会内でも父娘が鋭く対立し、株主からは『親子の対立でO社のブランドが傷ついている』、『双方が歩み寄って握手すればいいのになぜそれができないのか』など騒動に対する批判や早期収束を求める意見が相次いだとのことです。

現社長を支持したのは?


創業者が筆頭株主として約19%の議決権を有してます。加えて従業員持株会、大株主にして主要取引先の他取引先の株主が創業者を支持していたので、『創業者有利、追い込まれた現社長』という構図でした。

しかし、フタを開ければ61%の多数で現社長の勝利でした。議決権を行使した株主の割合も影響すると思いますが、注目された株主総会でしたので、普段は議決権を放棄する多くの『浮動票』が現社長に流れた結果でしょう。

浮動票以外に現社長を支持したのは、アメリカのファンド『ブランデス インベストメント パートナーズ』でした。

O社の株を主に投機目的で保有している(基本的に株価にしか興味のない)人達よって現社長が支持された

と私は見ています。

これが会社法のルールですので、そのことを問題にするつもりはありません。

多くの人は『世代交代』としていずれ創業者は退くのが筋だから、と感じるでしょう。しかし、この世代交代では創業者の築いてきた、業界での地位や影響力、従業員に対するリーダーシップを承継していないんです。

創業者の後押しの無い現社長はリーダーとして適格か?

そもそも、現社長が社長であった理由は創業者の娘だからです。おそらく、会社の内外に現社長よりも優れた経営者は居ます。

今後の展開として想定されるのは、現社長の退場です。大塚家具の株式を約10%所有していますが、創業者の19%よりも少なく支持している株主は前述の『浮動票』です。

現社長が今後『結果』を出せなかった場合、彼女を退場させるのは創業者の時よりも容易でしょう。

そうなった時に新しい経営者を連れて来るのは、アメリカのファンド『ブランデス インベストメント パートナーズ』である可能性が高いと思います。

日本の大企業には意外と一代で大きくなった同族会社があるんですが、ちょうどこれから創業者が引退の年齢になってくる会社が多いです。

本音を言いますと、会社が一定以上に大きくなって影響力を持ったら同族会社でない方が社会や従業員にとってはハッピーなんだと思います。

誰が支配していようが『社会が必要とする企業』は残ります


たとえ一族以外のものが社長になったとしても、また外国人であったとしても、O社のブランドと精神が承継されていくのであれば、それが彼ら父娘にとっての本当の勝利であろうと思います。

2016年4月17日日曜日

どうなる?国内カジノ解禁法案 推し進める賛成派、ギャンブルの毒を知らない人たち

ギャンブルの毒を知らない人たち


2015年4月に自民、維新、次世代の3党が衆議院の解散で一度は廃案となった国内カジノ解禁法案を再度衆議院に提出しました。

自民党の細田幹事長は記者会見で21世紀の日本は観光で所得を上げなければならず、さらなる観光振興にはカジノを含む大規模な複合観光施設が必要だと語っています。

おそらくギャンブルを知らないのでしょう。

知っている人ならば上記のような説明にはなりません。知っている人が上記の説明をするなら、それは知らない人をあざむく言葉です。

その例外を除いて『知らない』ということにしておきます。

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ギャンブルの起源は貨幣の起源と時を同じくします

貨幣経済の誕生の前に物々交換経済の段階があったのだろうと思いますが、そんなにタイムラグはないと思います。

物々交換によって価値が生まれます。

山に住む人は海のものが欲しい
海辺に住む人は山のものが欲しい

物が人から人に相互に移動することで価値を生む。これが盛んに行われることで社会経済が発展していくのです。貨幣を媒介とすることで交換の効率が飛躍的にアップします。

貨幣の本質=運動とヒトの習性


目まぐるしく行われる価値の交換は目に見えませんが貨幣の動きとして可視化されます。貨幣の本質は運動なんです。

我々ヒトはどういう訳かこの運動が好きなんです。小規模な自給自足経済から現代の経済が発展したのは、一人一人がより速く、より多くの価値の交換=運動を欲したからなんです。

価値の交換=運動を盛んにすることで価値が増幅していくことが気持ち良い=快感なんです。
これは他の動物には無い習性です。

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ギャンブルの本質=価値を伴わない運動


ギャンブルに貨幣は不可欠です。点棒やコインやパチンコ玉は貨幣ではないですが貨幣を擬制してるんです。本質は同じです。

ギャンブルにおいても貨幣が運動(行き来)します。しかし問題はこの運動が価値を伴っていないという点です。

ヒトの習性は価値が伴っていない運動にも熱中してしまうのです。

ギャンブルの貨幣の運動の本質は『運』です


『雀聖』と言われギャンブル界のカリスマである作家の阿佐田哲也氏の名言にこういうのがあります。

麻雀を点棒のやりとりだとしか思えない人は永遠に弱者である。麻雀は運のやりとりなのだ。点棒の流通は誰にも見える。が、運の流通は見えにくい。だから多くの人が無視する。

『麻雀』という言葉を『経済』に言い換え、『運』という言葉を『価値』に言い換えれば前半の内容にカブりますね。

法が賭博を禁止しているのは、このような貨幣の流通が価値を生まず、社会経済にデメリットの方が大きいからです。

かつて、麻雀が爆発的に流行した高度成長期の一般的な麻雀クラブのレートは千点100円、今はむしろ千点100円でも高い方です。

当時の大卒初任給は4万円位ですから、一晩で月給を失う(又は得る)くらいのギャンブルを普通のサラリーマンがやっていた訳です。

高度成長期なんて、ついこの間のことです。今の我々となんら変わらない。環境が揃えばそうなるんです。

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ギャンブルで流通する貨幣


繰り返しになりますが、我々は価値の伴わない貨幣の運動にも快感を感じます。貨幣は運の流通に伴ってギャンブラーの間をただ虚しく行き来するだけのものになるのです。

阿佐田哲也氏の言葉を引用します。これもギャンブルの本質を言い得てます。

勝負が終わるまでは金を金だと思ってはいけない。鼻っ紙だと思わねばならない。

ギャンブルに勝つことによって得られる快感というものは、格別です。

それなりに努力はしますが、価値を生む行為をせずして金が増える。

だからかもしれませんが、あたかも自分が全能であるかのような高揚感をヒトに与えます。

ギャンブルにかけている時間=生命は閉じた世界での運の流通に消費されていくのです。そして勝ち越すには自分以外の人の運が下がることを望むようになるんです。

カジノ解禁を推す人の言い分とは


再び国内カジノ解禁法案を推し進める根拠として挙げている細田幹事長のポイントを見てみましょうか。


  • 所得を上げて経済発展
  • カジノは観光施設の一つ


永く賭博が禁じられている社会で、なかでもエリート街道を歩き、その毒に晒されることのなかった人の考えそうなことですね。

2016年3月21日月曜日

外食M社の異物混入事件で考える企業の存在意義について

M社の異物混入と市場の判断

外食大手M社の異物混入については、期限切れの鶏肉使用に続き、店舗で提供された食品への異物混入がテレビやインターネットで報道されており、加えて記者会見での回答が被害者への回答と大きく食い違ったことについて批判が集中しています。

相次ぐ不祥事を受けて株価も続落しており、経営に大きな打撃となるのではと懸念されています。

確かに打撃ではあるでしょうが、倒産することは無いというのが市場の判断のようです。

企業が倒産する理由


企業が倒産する理由は様々ですが、直接的には債務超過(保有している資産よりも借金が大きくなること)や資金ショート(約定の支払いに対して現金預金が足らなくなること)という形で現れます。

先の市場の評価で「倒産はない」というのをかみ砕くと、『M社の信頼回復が間に合わず、売上が減少して債務超過や資金ショートに陥るまでにはならないだろう』ということになります。

至極あたりまえのことですが、少し角度を変えてみてみようと思います。

営利企業の社会からの退場宣告


営利企業は、文字通り営利を業(なりわい)として設立される法人です。法人というのは法律上の用語ですが、社会で営利活動する際に我々人間と同じように権利や義務の主体になれる存在ということです。

法人格などと呼ばれることもあります。人間のように扱ってるんですね。そして死ではなく、倒産という形で社会から退場していきます。

営利企業の目的は文字通り営利ですが、その存在意義は『企業が得る営利以上の利益を社会にもたらすこと』だと私は考えます。(これは人間の存在意義と大きく違うところの一つだと私は思います)

社会の富はその時点時点で有限であり、我々は皆でそれをシェアしています。ここでいう富は金銭のみではなく貢献や効用のようなものも含まれます。メリット、と言い換えてもいいです。

そして営利企業の倒産とは『その企業が存続するのに必要とする富が社会へのメリットを超えており、社会からその存在意義を否定された』ともとらえることが出来ます。



社会「オマエもう要らないヨ」
企業「まじっすか!?」



よく営利企業がCSR活動と称して道路の掃除をしたり、発展途上国の支援をしたりすることがありますが、これらの活動は利他行為ではなく、社会に対して自らのメリットを大きく見せるための、むしろ至極利己的な行為と考えられます。

再びM社のケース


そこで、市場の「倒産はなさそう」という判断は、言い換えますと社会の構成員である我々や法人たちの総意が、いまのところ「使用期限切れの鶏肉を使ったり、商品に異物が混入したりしてる上に経営者の対応もお粗末だけど日本中からM社の店舗が無くなるよりはマシかな」ということになります。

しかし、M社については店長の残業代未払問題も記憶に新しいと思います。

営利企業は自己の利益の最大化を志向するため、コストを抑えて利益を獲得しようとする傾向があります。これが行き過ぎると様々な形で不祥事として顕在化するのです。

今回のM社の不祥事はかつて従業員(店長)から余分に富をガメていたことがバレて社会から退場宣告を受けそうになったので、一旦は反省したものの、今度は仕入業者や生産者から富をガメて、また退場宣告を受けそうになっているような気がしてなりません。

まとめ


なお、営利企業やM社が邪悪なもののように扱われていますが、あくまで営利企業として、元来そういう傾向を持っているということであり、企業に罪はありません。

むろん実際に富をガメすぎるかどうかについては、個体差があり、加えてここに書かれていることは、すべからく私見です。

2016年3月4日金曜日

税金『無駄遣い』という言葉のウラ側

税金の無駄遣いという言葉に物申す


よく税金の無駄遣いという言葉でマスコミが公務員を非難することがあります。本当に無駄遣いである場合もあります。

しかし、マスコミは税金の使い途について、ちゃんと考えて報道しているとは限りません。

テレビであれば、視聴率です。視聴率が取れそうなネタは大々的に報道しますが、いまいち視聴率が取れそうもない=わかりにくい無駄遣いネタは報道しないんですよね。

逆にそんなに大したことないのに大騒ぎすることもあります。それは、電波の無駄遣いだと思います。



無駄遣いって何?


『お小遣い』って言葉と同じですよね。なんで『遣い』なんでしょう?『使い』じゃダメなんでしょうかちょっと調べてみました。

使い•使う

一般用語、主として動詞形
上目を使う、お使いに行くなど

遣い•遣う

限定用語、主として名詞形
上目遣い、王様の遣い、遣唐使

意味としては同じみたいですね。両者を使い分けて、正しい言葉遣いを…日本語って面倒ですね。

税金は『使う』モノということで合意されている

本題です。『税金の無駄遣い』について、その言葉遣いに誰も異論が無い所を見ると、国民の間で税金は『使う』イコール『支出する』モノってことで異論ナシなんですね。

投資という視点(平行線)


これと対照にあるのが『投資』という考え方です。税金の無駄遣いについて報道される時、『投資の失敗』と『不適切な支出』がしばしば一緒くたにされます。

一般の企業がお金を使う時、それは売上によって回収しなければなりません。
一方、役所がお金を使う時、それは既に徴収した税金ですので、利用者から売上で回収するという考え方はありません。

両者の見解はケースによってはハナから噛み合わないのです(お互いにイマイチ理解出来ない)

公務員は、税金=公金を有効に使うということを考えます。回収ではありません。

さほど重要でない公務員の無駄遣いを批判するマスコミは電波を有効に使っていませんが、視聴率の取れるネタで番組制作費をCM収入で回収しているんです。


投資を回収できていれば無駄遣いじゃないんですか?そういうことじゃないはずですよね。

2016年2月19日金曜日

M銀行元審査役詐欺発覚から3年で逮捕 詐欺認定の難しさ

M銀行現職の行員が起こした詐欺事件

M銀行の審査役が起こした稀に見る巨額投資詐欺事件です。

M銀行の『元審査役』O容疑者(51歳)が本社応接室で顧客に嘘の投資話を持ち掛け1億1千5百万円を騙し取ったとして逮捕されました。『元本は銀行が100%保証し、月3%の利息』で『特別な顧客』だけに、という誘い文句でした。みずほ銀行の看板を最大限に利用した投資詐欺で、被害額の総額は数十億円になると言われています。

この事件の発生自体は3年前なんですよねなんでまた今頃やっと逮捕なんでしょうか?

詐欺罪は認定が難しい

詐欺罪が成立するには、4つの条件があります。

①犯人が騙すつもりで騙し
②被害者が錯誤したことで
③被害者が財産を処分し
④その処分した財産を犯人又は第三者に交付した

上記の因果関係が一連してないとダメなんですって。特に①犯人が騙すつもりで騙すっていうのが犯人の主観による所なので立証が難しい。

試しに①を少し変えてみると、どうでしょう。

①騙すつもりはなかったけど
②被害者が勘違いしたことで
③被害者が財産を処分し
④その処分した財産を犯人又は第三者に交付した

こうなると『預かったお金を返せない』だけですので犯罪になりません。犯人はあくまで『騙すつもりはなかった』と言い張ることで刑事罰を逃れようとします。

『騙すつもり』という点について決定的な証拠が無ければダメなんです。今回のケースでは犯人が『本物のみずほ銀行の調査役』という身分があったため、『騙すつもりはなかった』言い訳が豊富にあったのでしょう。

検察側は慎重を期したのかもしれません。『そんな美味い話があるわけ無い』というのは、あくまで状況証拠という分類なんでしょう。


投資詐欺の典型『元本保証の高利回り』


『元本は銀行が100%保証し月3%の利回り』とは、1億の元手がノーリスクで1年後に1億3千6百万円になることを意味します。

これを信じさせるために犯人が仕掛けた罠が『特別な顧客』と『M銀行の看板』でした。

美味い話には気を付けましょう。

一部にはお医者さんやスポーツ選手などの世間知らずが引っかかったなどと揶揄する声が(恐らくやっかみもあり)上がっています。


人は信じたいことを信じる生き物です


始めはおかしいとは思っても『働かずに大金を手にする』そのお金で実現する生活レベルの向上、将来への不安の解消がもたらす幸福感を目の前にすると、それを信じたくなるのが人情です。

今まで自分が知らなかっただけで、そういうことがあってもおかしくは無い。

なんて思いたくなるんです。

もう一つはM銀行本社の応接室という舞台や『特別な顧客』という言葉です。

例えば、私にそんなことを言っても効果はありません。怪しさが増すだけです。しかし普段から『特別扱い』されている人達で有れば、信憑性を増す言葉なのかもしれません。

被害者達にとっては聞き慣れた言葉なんでしょうね。


被害者達は以前にも美味しい話で儲けたことがある?

もう一つの見方があります。被害者達は『以前にも似たような美味しい話があって、その時は美味しい思いをした』経験があるのかもしれない、という見方です。

元本が保証され、高利回りの利益が約束される取引は存在します。あえて書きませんが投資とは言えない違法なものです。

おそらく当局は『被害者』に対する捜査も並行して行っている可能性もあります。この投資詐欺の被害者は数十人、被害総額は何十億円とも言われていますが、立件されたのは刑事告訴した男性医師(45歳)の1億1千5百万円だけです。


O容疑者と共犯二名の違い

O容疑者は詐欺を認めましたが共犯二人は未だ否認しています。

被害者から騙し取った金は他の被害者への穴埋めや遊興費に使ったことになっていますが、詐欺の大胆かつ巧妙な手口に比較して取って付けたような印象を受けます。

O容疑者は服役後の絵を既に描いているが、共犯の二人は描けていない。

詐欺の手口だけでなく、その使い途にこそ深い闇があるように思います。

それを知っているのはO容疑者であり、共犯の二人は知らない。やはりキーマンはO容疑者でしょうね。

2016年2月12日金曜日

M銀行元行員横領事件から考える 繰り返される理由と不正防止の観点

全ての銀行関係者に考えてほしいこと

始めに断っておきます、私はM銀行の関係者ではなく、家族にも関係者はいません。また、たまたまですがM銀行に預金は無く、融資も受けていません。投資もしてませんよ。

このブログは、M銀行の関係者(もしかしたら経営者も)に読んで貰いたい、と思って書いたものです。しかし、Googleで検索しても私の記事は他のニュースサイト、まとめサイトに阻まれ、なかなか読んでは貰えそうにありません。

前回はM銀行の企業としての側面に対し少し批判的な内容でした。『じゃあどうすればいいのサ?』という問いにある程度答える記事を書いておこうと思います。

銀行の3大機能と商品

銀行の3大機能は、『金融仲介』『信用創造』『決済機能』の3つの機能によって成り立っていると言われます。詳細は避けますが、これらの機能の根幹にあるのは銀行への信用です。

マクドナルドの商品がハンバーガーであるように、銀行の商品は無形の信用です。
《モルガン•スタンレー 、ローレンス•マッキントン》 
『銀行の経営は信用があって成り立つか、融資する価値がないと判断されて成り立たなくなるかのどちらかだ』

横領が信用に与えるダメージ(決済機能における信用の軽視)

では、行員の横領が銀行の信用に与えるダメージはどの程度かというと、大したことはないというのが大方の見方です。

逮捕の報道の直後に確かに株価は下がりましたが、たまたま売り時をうかがっていた投資家が売るキッカケになった、程度のものでしょう。

『何千万も騙し取られるまで気付かないような金持ちの話だ、呑気なもんだ、俺には関係ない』って訳です。

これが『信用創造』機能への信用不安なら様相は全く異なってきます。預金者が一斉に預金を取り戻そうと窓口に殺到し、銀行は破綻します。


決済機能への取組(照合への偏り)

だからといって、銀行の決済機能への取組がずさんだと言いたいのではありません。

昔聞いた話ですので情報が古いかもしれません。3時に銀行窓口を閉めた後、残高を合わせるのですが、一円でも合わなければ帰ることは出来ない。

支店内の全員の机の中はおろか、ゴミ箱まで探して原因を追及するらしいです。

照合するということにおいて、銀行の右に出るものはないでしょう。近年はITの導入によって照合業務のかなりの部分が機械が行うようになっていると思います。一方で人間によるチェックについては照合中心から脱却できていないのではないか?というのが私の考えです。

再び、『銀行員にならなければ犯罪者にはならなかったかもしれない』

挑発的な内容ですが、怒らずに読んで下さい。

銀行員の横領という決済機能への信用というダメージについては、銀行も社会も深刻視しません(マクドナルドとエライ違いです)。また、銀行の決済機能のチェックは未だに照合に偏っているため、照合で発見されない手口(内部の者による偽造)には弱い。

今後も、善良な銀行員から一定数の犯罪者が出続けるのでしょう。


不正防止の観点からのチェックを


こういった犯罪の場合、その時は気付かなかったが『今にして思えば不自然だった』というような出来事(兆候)があるものです。

そういった生きた経験を、個人のものだけにするのではなく、組織で共有し、可能なものはルーティンのチェックの中に織り込んで行く。

照合についてはそろそろ機械に任せ、人によるチェックは仲間を犯罪者にしないための不正防止の観点からのチェックにシフトすべきではないでしょうか?


2016年2月6日土曜日

M銀行元行員の犯罪 46歳の元課長代理 不正のトライアングルと銀行の罪

銀行員と犯罪

M銀行の元銀行員が横領で逮捕されました。46歳の課長代理の男性です、私とそう歳はかわりません。それで少し検索してみると、M銀行は去年の11月、4月にも横領で逮捕者が出ています。どちらも50代の男性課長です。

加えて前代未聞といえる現職の審査役による巨額投資詐欺事件も発生しました。

銀行員といえば、あまりこういう言い方好きじゃないですが、サラリーマンの中では上の部類に入る人達です。別の言い方をすれば社会的な信用が高い。例えば、独身女性の読者の方が彼氏を親に紹介するときに、比較的両親のウケがいい部類の人たちです。

しかしその銀行から約一年の間に少なくとも3人の犯罪者が出た、という事実をどう見ますか?

当然、銀行が犯罪者ないし犯罪者の要素を持った人を雇用しているのではありません。


彼らは銀行員となってから犯罪者となった

「何を当たり前のことをエラそうに」と思われるかもしれませんが、重要なポイントです。このような言い方もできます。

彼らは銀行員にならなければ、犯罪者にならなかったかもしれない。

最後が「かもしれない」で終わっているのは始めに「銀行員にならなければ」という「if」があるからです。彼らが銀行員でなかった場合にどうなったかまで、私にはわかりません。

銀行員、それもみずほ銀行のようなメガバンクに入行するには真面目に勉強をして、東大とまではいかなくても誰もが知っているような名のある大学に入り、要領よく単位を取り、就職活動もしっかりやったのです。

彼らが銀行員になるまでの人生において『盗む』『騙す』という行為からは実に遠いところにいたはずです。



不正のトライアングル(動機、環境、正当化)

不正のトライアングルという言葉があります。企業の従業員や経営者が横領や不正会計、粉飾決算をする、ある一線を越える時の要素です。

不正のトライアングルはインディアナ大学出身の犯罪学者ドナルド•クレイシィ(1919〜1987)の研究による、1973年に出版された「横領の社会心理に関する研究」の中で提起された理論が発展したものです。

現在は、企業が従業員•経営者による横領、不正会計、粉飾決算などを未然に防止する仕組み(内部統制)を構築する時に利用される考え方です。


横領の動機

彼らが、横領という犯罪に手を染めた『動機』として、ギャンブル(借金)や高級クラブ(女)が本人の証言として報じられています。銀行員は特にギャンブルや女に溺れやすいのでしょうか?ギャンブルや女というのは、銀行員に限らず『男性』に特有の動機であると思います。


横領可能な環境

彼らに共通するのが、『管理職である』である点です。報道では、その立場を利用したような書かれ方をしています。

手口の詳細は分かりませんが、管理職というだけで簡単に預金を引き出せるわけではありません。必ず何人かのチェックの上で行われますし、内部監査も定期的におこなわれているはずです。

むしろ、M銀行の現在の不正防止措置では有効性に欠けるのかもしれません。(かもしれません、というより『そうに違いない』と書きたい位、短期間に不正が頻発し過ぎです)

犯罪者を擁護する意図はありませんが、この点において銀行側の責任は大きいと私は考えます。

『性善説』『性悪説』という言葉があり、しばしば『性善説』はそんな悪い人間はウチの会社にはいないよ、というような耳障りの良い、人道家的な立場からの意見として語られることがあります。しかし「できればカネにならない不正防止などということに時間と労力を使いたくない」という企業側の本音の隠れ蓑として語られていることが多いです。

本当に従業員や顧客のことを思うならば、


  • 大きな企業ほど従業員の『動機』にまで目配りできないこと
  • 人間は元来弱く誰しも不正を働く可能性があること


上記を踏まえて『不正をやろうと思っても極めて困難な仕組み』を(ある程度、コストがかかっても)設定するのが、真に人道的な立場であろうというのが私の考えです。

元来は善良な自分達の仲間を犯罪者にしない為のコストでもあるのです。



横領することの正当化

横領は言うまでもなく、悪いことです。彼らの中でそれを正当化する理由があったということです。例えば、こんなことになったのは銀行(顧客)のせいだ、自分は悪くないorやむをえない。というような身勝手ですが、彼らの背中を押す『事情』です。

彼らの年齢とポストを見ると、銀行への復讐もあったのでは、と思われます。もちろん復讐だとすればお門違いですが、たとえ銀行内で出世出来なかったとしても、最後まで自分の仕事に誇りを持ってもらいたかったと思います。

そして、そのような前向きな風土を形勢するのは経営者の責務であると思います。

2016年2月4日木曜日

建築会社のデータ改ざんの手口と動機から見えるマンション購入のリスクとチャンス 

データ改ざんの手口と動機から考えるこれからのマンション市場


ここ数日はゼネコンA社の施工データ改ざんの話題で持ちきりですね。今回は、ゼネコンの施工担当者が行った改ざんの手口とその動機、これからのマンション市場について書きます。

  • なぜこんな事になったのか?
  • 消費者はこれからどうすれば良いのか?

現行の工事監理の限界=工事施工者の悪意を想定していない


マンションの建築工事では設計指図書の通りに工事が行われているか、第三者的な立場から工事監理者という立場の一級建築士がチェックする体制になっています。

杭工事ではまず初めに試験杭を打ちます。工事監理者はその現場に立ち会って設計図書通りに施工されているか、下記に挙げるような重要な部分をチェックするんです。

  • 材料
  • 施工管理状況
  • 地質
  • 支持地盤
しかし、工事監理者はずっと現場に張り付いて監視してる訳ではありません。

施工業者が試験杭の施工と同じように誠実に施工することを前提としているんですね。

つまり、工事監理者のチェックは施工者に悪意があることを前提としたチェックになっていないんです。


改ざんの手口は極めて単純


ゼネコンA社の社長が現場担当者による改ざんを認めたのは凄く早かったと思いませんでしたか?

マンションの傾きが大々的に報道されて、マンション販売会社の社長が住民に謝罪した、その日に、もう現場担当者によるデータの偽装を認めたんです。

つまり…


  • 資料に隠ぺい工作が無く、見ればすぐわかる
  • 疑いようがない


こんな状態だったということです。

報道では当初『データを改ざんした』と出てましたので私は電子データとばかり思ってました。

電子データでコピーされたら、なかなか分からないだろうな…

と、思ってましたけど、その後のゼネコンA社の社長の説明では『記録紙が濡れた』というコメントが出て来ました。

え?記録紙?

ということは、電子データではなく、紙のコピーということです。

すぐわかったということは他の杭のデータを印字した記録紙をコピーして、ほとんどそのまま綴じ込んでいた可能性が高いですね。

いずれにせよ、問題があるかもしれないという目で専門家が見れば明らかにコピーだとわかったような手口ということです。


担当者が施工データを改ざんした動機


施工データを偽装したところで、担当者に金銭的な見返りはありません。

報道でも言われていますが、工期を守らなければならないというプレッシャーだと私も思います。

このマンションが販売を開始したのは2006年でした。下のグラフにもありますが、首都圏のマンション販売戸数が特に多かった時期の最後の方の時期です。

ちなみに2008年にガクッと落ちてるのは、リーマンショックによるものです。

国土交通省 住宅経済関連データより
マンション新規販売戸数の推移

この時期は、デベロッパーからの工期への圧力が高かったと言われてますね。このグラフを見ると、2006年以前もかなりのプレッシャーがあったのではないかと思います。

今後は、工期を守るということが、施工不良の動機になり得るという前提を置かない訳にはいかなくなるでしょう。

今後のマンション市場は冷え込むが、購入希望者にとっては好機でもある


当然、今回のこの事件を見て『やっぱりマンションを買うのは恐いな』と思った人が多いと思います。

聞いた訳ではないですけど、契約件数はガクッと落ちたでしょうね。

ということは…ヤラシイ話ですけど

新築マンションの値引き交渉を有利に運ぶチャンスとも言えます

多くの人が様子見に入るので『買い手市場』になるんです。良い物件を安く手に入れるチャンスです。

同時に

  • 既にマンション建築ペースは落ち着いている
  • 施工者、監理者、マンションデベともに過敏な程に注意している


新築マンションについては、むしろ最も施工不良のリスクが低いタイミングだと言えます。

その逆に、供給のピーク時に建設された中古マンションについては、施工不良のリスクについても慎重に考えた方が良いかもしれません。


今後のマンション購入検討者に迫られる選択


マンション販売会社にとっては、まさに今、販売中のマンションが売れないということは次のマンションを建設する為のキャッシュの流れがストップすることです。

やらしい話ですが、間違いなく購入検討者にとってのプラス面です。

むろんリスクもありますが、今回の事件は今まで密かに潜在していたリスクが見えただけという考え方もできます。

一方で、たとえ僅かでも施工不良の可能性があるなら購入すべきではないという考え方もあるでしょう。工期のプレッシャーは健全な経済活動で通常発生するものです。これが施工不良の動機になり得るというリスクは、事件そのものが風化しても残り続けるでしょう。


  • リスクを許容するならば好機
  • リスクを許容しないならば、あくまでマンションの購入はやめるべき


購入検討者はこの決断を迫られる場面になりそうです。
  

2016年1月27日水曜日

杭データ偽装と販売したデベロッパーの責任 購入者が急ぐべき瑕疵担保請求

昨夜の夜にマンション業界に激震が走りました。横浜のマンションが傾いた問題で、下請け建設会社が施工データの偽装を認めました。

約2㎝低くなっている渡り廊下の手すり

(写真は横浜市建築安全課が公開したもの)

不動産業界の信用を揺るがす大事件に区分所有者が取れる対応


横浜のマンションの完成は2007年です。住民が渡り廊下の異変に気付き、販売会社に連絡したところ、当初は『東日本大震災が原因だ』という説明を受けたらしいです。

また、販売会社側は杭の施工不良が明らかとなった現在でも『震度7の地震に対する安全の検証を行った結果、安全は確保されている』と説明しているようです。これは時間稼ぎです。区分所有者は自らの財産を守る為に、やるべきことをやらねばなりません。

瑕疵担保責任の有効期間は引渡しから10年、知ってから1年


瑕疵担保責任(かしたんぽせきにん)とはマンション購入などの有償契約でその目的物(今回はマンション)に隠れた瑕疵(購入の時点で明らかになっていない欠陥)があった場合に売主が買主に対して負う責任です。

売主の責任は無過失責任です。売主に責任が無くてもその責任を負うということです。

この責任は原則として無期限です。買主は瑕疵を知ってから1年以内に請求すればいいんです。一方で売主に過失が無くても負うので過大な負担となってしまいます。

そこで売買契約に特約を設けてその期間を短縮したりするんですが、新築住宅の場合は、住宅品質確保法(94〜97条)によって10年よりも短い期間には出来ないことになっています。

つまり、2007年に完成引渡しを受けたこのマンションはまだ10年経過していないので、瑕疵担保責任を追及できる状態です。

これは不幸中の幸いです。

買主が追及できる権利は二つ

  1. 損害賠償請求
  2. 契約の解除=返品返金

今ならまだマンションを返品して払ったお金を返して貰える可能性があります。

瑕疵を知ってから1年の時間切れに注意!一刻も早く専門家に相談を


現在、売主は住民との話し合いということで、様々な手を打っていると思います。

時間稼ぎです。

あくまで法律的な手続きで瑕疵担保責任を請求しないと、知ってから1年という期間はアッという間に過ぎてしまいます。

管理組合として、三井側と交渉するにあたっては、一刻も早く法律の専門家に相談し、代理人を立てて交渉するべきです。

仮に過失を知った時点を手すりのズレに気づいた2014年11月とされてしまうと、残りは1か月ということになります。


契約を解除出来る可能性


区分所有者としては、調査・補修などより『もう契約を解除したい』という気持ちが強いのではないでしょうか。
契約解除出来る可能性について、検討してみます。


契約解除はその欠陥によって目的を達成出来ない場合のみ


契約が解除は、そのマンションの欠陥によって住宅としての目的を達成出来ない場合のみ認められます。

住宅としての目的=住む目的ですね。

そこに住み続けることが危険であり、住み続けるのが不可能だと裁判所が認めれば契約解除=返品返金となります。もちろん別途、損害賠償請求も認められます。


契約解除は販売会社が最も恐れる結末


これは販売会社にとっては何よりも避けなければならないポイントだと考えているようです。

ここだけは死守したい。

それが現れているのが、販売会社のこのコメントです。再度書きます。

『震度7の地震に対する安全の検証を行った結果、安全は確保されている』


いつの間にこんな検証をやったんでしょうか?
どんな検証をしたんでしょうか?

マスコミに聞かれても『係争中なので』『話し合い中なので』と言えば答えなくても済む質問です。

とりあえず、そういう主張をしておかないと、区分所有者から『住宅としての目的を達成出来ない』と訴えられた時に反論出来なくなるからです。

下記は販売会社のコメントです。
『お住まいのお客様には当社が誠意を持って対応させていただきます』
では、責任を取るつもりはあるのか?

どうでしょうか。

その後の報道で、三井不動産レジデンシャルは社長自ら住民に謝罪し、以下を約束したことが報じられました。


  1. 全棟建替えを基本的枠組みとした対応
  2. 代替住居、宿泊ホテル等の費用負担
  3. 精神的損害への補償


この件についてはソフトランディングしそうですね。

これから旭化成建材が担当したマンションで同様の施工データの改ざんが行われていないか徹底的に調査されるでしょう。


  • どこまで被害が広がるか?
  • どこまで補償されるか?


予断を許さない状況ですね。

住民が建設会社の責任を訴える場合は不法行為責任


建設会社とマンションの買主の間に直接の契約はありません。買主がこの瑕疵担保責任を追及出来るのは、直接の売主のみです。

住民が原因を作ったとされる建設会社を訴えるには、不法行為責任の追及となります。

不法行為責任を追及する場合、加害者(被告)である建設会社の過失を被害者(原告)である買主が立証しなければなりません。

不法行為責任の追及は瑕疵担保責任の追及よりもハードルが高いのです。