工事進行基準の不正リスクを解説します
何日か前からですがT社の不適切会計が大きな波紋を呼んでいます。巨額粉飾事件に発展するのでは?と言われてますね。
T社は証券取引等監視委員会に届いた内部通報で不適切会計が発覚し、2011年度から2013年度の利益の減額修正は500億円強だと発表した。加えて第三者委員会による調査を行う。その範囲は
①工事進行基準に係る会計処理
②映像事業における経費処理
③半導体事業における在庫評価
④パソコン事業における部品取引
など主力事業の大半が対象になっており、意図的な会計操作や経営陣の関与があった場合は大事件となる恐れがある。
記事を見ても『不適切会計』でやれ『第三者委員会』だの、『工事進行基準』だので結局何がどうなのか要領を得ない感じですね。
今日はこの『不適切会計』と『工事進行基準』という二つのキーワードの解説と、『第三者委員会』が調査しているポイントについて解説します。
不適切会計と粉飾決算の違い
別の表現を取ると『粉飾決算』です。実態よりも儲かってるかのような決算発表をして投資家を欺く行為です。
あえて粉飾決算と報じないで不適切会計と報じる理由は、ワザとなのか、ワザとじゃないのか明らかになってないからでしょう。
そこは第三者委員会の調査で明らかになるということです
では工事進行基準とは?
工事進行基準が不適切だったと報じてますね。工事進行基準って何でしょうか?
請負工事の収益を計上する会計基準の一つです。
工事進行基準は粉飾決算のリスクが比較的高いんです
請負工事の収益の計上基準には二つあります
- 工事完成基準:完成引渡し時に収益を認識する
- 工事進行基準:工事の進捗度に応じた収益を認識する
1の工事完成基準はシンプルです
工事が完成して引渡したタイミングで収益を計上するやり方です。100万円の工事を80万円の工事原価で完成させる場合で考えてみます。
工事中は一部前金を貰ったり、工事のために外注業者にお金を払ったりしますが、工事が完成して初めて100万円の売上と80万円の原価を計上するんです。利益は20万円ですね。
どれだけ工事が進んでても完成しないと売上になりません。確実ですけど大規模な工事で2年3年かかるような場合は会社の活動の成果が決算にリアルタイムに反映されないという弱点があります。
2の工事進行基準はリアルタイムに成果を認識します
工事の進行度合いを費用の発生額で見積もって収益を計上するやり方です。例えば100億円の工事を80億円の工事原価で完成させる場合で考えてみます。
一年目にその工事に20億円の費用がかかったとします。トータルの原価(見積総原価)が80億円ですから25%進んだと考えます。
工事が途中でも、100億円の25%の25億円の売上と20億円の原価を計上するんです。利益は5億円ですね。
この方法ならリアルタイムに会社の活動の成果を決算に反映できます。多くの大企業はこの基準で工事収益を計上して決算発表してるんです。
工事進行基準のリスク=見積総原価はあくまで『見積り』なので恣意性が介入する
さっきの例の工事の請負額100億円については相手(施主)との契約があれば、まあまあ確実です。
しかし…
見積総原価の80億円はどうか?これは企業が自分で見積るんですよね。極端な話、いくらにしても良いんです。
さっきの例で粉飾をしてみましょうか。
ホントは80億円かかるんだけど、50億で出来ることにしちゃいます。
20億の費用がかかったら、50億のうち20億ですから40%進んだことになります。
そうすると100億円の40%の40億の売上と20億の原価を計上できます。利益は20億ですね(さっきは25億の売上で5億の利益でした)。
もちろん50億では完成させられないので翌年完成の時には60億の売上に60億の原価で利益はゼロです。
見積総原価を弄ると利益を先取り出来るのが工事進行基準
T社が500億円の利益の下方修正をした背景は、このような利益の先取りがあったということを意味しているんです。
仕組みは小学校の算数レベルの話ですが、ややこしいのはその背景です。
数年に渡る大規模工事の総原価の見積りについて
- ワザと低めに見積もったのか
- ワザとじゃないけど結果的に足が出てしまったか
これを判断するのは、かなりややこしいでしょうね。ワザとかワザとじゃないかで罪が全然違ってきますから。
こういう背景があっての弁護士や公認会計士の第三者委員会の調査ということなんです。
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