T社の不正を見抜けなかった監査法人
工事進行基準はリアルタイムに企業の活動の成果を決算に反映できるけど、恣意性が入りやすいので粉飾決算のリスクが高い。例えば、見積総原価を低く見積もったら簡単に利益を先取りすることが出来る。
『会社は利益が多い方がいいから、ほっといたら皆やるでしょ。そんな会計基準はダメだな』と思いますよね。
しかし大企業は監査法人が決算を監査するという建前があります。
監査法人というのは、会計の専門家=公認会計士が作る会社です。
企業が粉飾決算をしないように、大企業の決算書(有価証券報告書といいます)を公表前に監査して監査報告書という『お墨付』を付けるんです。
例えば前の記事の例で行くと、会社が『ホントは完成まで80億くらいかかる工事なんだけど50億で出来るようにしておこう』と考えて決算書を作ったとします。
監査法人がちゃんと機能してたら、公認会計士がチェックして『ちょい待ち、そんな安くで出来ないでしょ』と突っ込んで、適正な決算を指導するんです。
だから東芝のケースでは担当した新日本有限責任監査法人の監査がちゃんと機能して無かったんじゃないか?とも言われてますね。
会社と監査法人の間でどんなやり取りがされてたんでしょうか?
考えてみました。
昨日のブログの数値例を前提にします。
- 売上100億の工事
- ホントの見積総原価は80億だけどワザと50億で出来ることにする
- 今年は20億の工事原価が発生した
期末決算監査にて
経理部長『やあセンセ今年もよろしくお願いします。今年も業績はだいたい予算通りいってて順調ですワ』
担当会計士『どーもどーもソラ何より。ところで、例の原子力のインフラ工事、震災から原子力は風当たり強いでっしゃろ?』
経理部長『そうですなぁ…確かに遅れてるみたいです。工事積算部からは何も言って来ませんから見積総原価はそのままです。そういう内部統制ですからね』
担当会計士『一応担当者から話を聴いておいた方がいいですね。ちょっとセッティングして貰えますか』
経理部長『わかりました、ワタシも確認しておきたいですし』
工事担当者へのヒアリング
担当会計士『例の工事の進捗、どうでっしゃろ?見積総原価が50億で20億の原価が発生してるから40%くらい進んでる感じ?』
工事担当者『40%??何の冗談でっか?全然ですワ、やっと基礎工事にかかった所ですからええトコ10%位です』
担当会計士『そらエライこっちゃ。決算資料では100億の請負で見積総原価は50億となってるけど…』
工事担当者『今回の見積総原価はだいぶコストを絞ってますからね、今営業で請負金の増額交渉してます』
経理部長『増額交渉もするやろけど、結局原価はナンボになるんや?内部統制で見積総原価が変わる場合はすぐ経理に変更予算を出すことになってるやろ』
工事担当者『分かってますよ!私は何度も提出してます。工事の再開がいつか、追加工事を受注できるか、色んな不確定要因があるんで、部長が決裁しないんです。ウチの部長に言って下さいヨ』
担当会計士『マアマア、ともあれコレはもうちょっと社内で揉んでもらわんとあきません』
経理部長『わかりました』
監査法人の事務所で上司(業務執行社員)との会話
担当会計士『…とこんな感じだったんですけど、あれから修正予算が出て来ることも無く、今に至ってます』
業務執行社員『キミなぁ、ツメが甘いんちゃうか?監査報告書は明日やで今更どうすんねや』
担当会計士『スンマセン…』
業務執行社員『経理部長はどう言うてるんや?』
担当会計士『会社の内部統制では工事積算部から修正予算の提出がないと決算数値に出来ないと言ってます。だいたい、あんな大規模工事の原価が幾らやなんてワカリマセンと…私もわかりませんし』
業務執行社員『しかし、今の売上と利益は明らかに多過ぎるんやろ?適正とはいえへんやろ』
担当会計士『ホナ監査報告書、不適正で出しまひょか?』
業務執行社員『オマエはアホか?天下のT社やぞ、そんなこと出来るわけないやろ。今回はしゃあない』
担当会計士『わかりました』
その頃の工事積算部での会話
工事担当者『部長、修正予算です。やっぱり大赤字ですワ、そもそも元の予算も原価絞り過ぎなんですよ』
工事部長『オマエはアホか?ウチは天下のT社やぞ、この工事で赤字なんぞ出す訳にいかんのや。どうにかせえ、やり直せ』
そして『ふりだしに戻る』です。
まとめ
工事進行基準で見積総原価を小さく見積もることで、利益を先取りできますが、少なくとも完成する時までには本当の原価が発生します。
後になって全体の確定利益が分かって、利益を先取りしてたことが明るみになります。別の隠蔽工作をしないとバレます。
しかし、それまでの間は色んな不確定要因があるんで、上手く説明すればシロともクロとも言えないグレーな感じになるんですね。
つまり、問題を先送りし、利益の先取りを許した監査法人の監査は有効に機能していなかった。
監査を担当した新日本有限責任監査法人の責任も問われることになるでしょう。
0 件のコメント:
コメントを投稿
注: コメントを投稿できるのは、このブログのメンバーだけです。